前回は、老舗繊維メーカーの廃業の話にまつわる、いわゆるサプライヤたるB2B起業が本当にエンドユーザに働きかけられる可能性があるのか?
という疑問を呈したところで終わりました。
一つの動きとして、昨今流行りの脱下請けを旗印に最終製品を作り出す動き。素晴らしいです。
でも、そのことばかりが大きく取り上げられることに、「違和感」を感じないでもない。
「脱下請けってどういう意味なんでしょう? みんなが最終製品メーカーになっちゃうこと?」
多分、そういうことではないでしょう。
どの企業もあくまでも本業を極めて、元請けの都合に左右されずに自分で自分の運命を決められることだと思います。
ということは、メーカーにでも業態転換をしない限りは、あくまでも、パーツやコンポーネント、あるいは素材を提供するという立場から、メーカーの手綱を握るような動きができることが重要だと言うことになります。
自分が部品サプライヤであっても、素材メーカーであっても、その立場を変えることなく脱下請けは可能だと思うのです。
もっと言えば自分で市場を生み出すことができると思うのです。
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でも、具体的にはどうすれば良いのか?
そんなことを思っていた時に読んだのが、
99.9%成功するしかけ キシリトールブームを生み出したすごいビジネスモデル
著者の藤田氏はキシリトールを流行らせた仕掛け人で、この本の出版後に株式会社インテグレートを立ち上げ、この本でも語られているIMC(統合型マーケティング)を実践するプランニングブティックを推進しています。
私自身は別に藤田氏とは全く面識はないのですが、たまたまある仕事でインテグレートの方といっしょに仕事をする機会があり、その際に本棚にあったこの本をあらためて引っ張りだして読んでみたのです。
今回はアンテナの立ち方が違ったのでしょうか、中小企業が自分で手綱を握るという観点で読んでいました。
この本で藤田氏は、自分自身の歴史とオーバーラップさせながら、どんなマーケティングを行なってきたのかを語っています。
元々、マーケティングというものに興味のあった藤田氏は大学在学中に起業して、大手化粧品メーカーに女子大生向けブランド構築を提案し、それに基づいて成功させるなどの手腕を発揮してきた人でもあります。
その藤田氏が、いざ就職した時に選んだ企業が味の素。
新入社員当初はルートセールスなどの営業を経験し、そこで成績をあげたのち念願かなって本社のマーケティング関連の仕事につくことになりました。
その時に藤田氏が知ったのが、食品素材メーカーにはマーケティングの専門家がいなかったということ。そして、ビジネスも典型的なB2Bのビジネススタイルをとっていて、部署も研究開発部門と購買部門という特定のビジネスで成り立っていました。
私自身もビジネス人生のほとんどがB2Bのビジネスです。
ソフトウェアベンダーであれば、情報システム部門か、せいぜい私がいた業界であればなんとか設計部門などです。
そして、素材ではなくソフトウェアという道具を提供したいたため、おそらくは素材メーカー以上に消費者マーケティングという視点はないでしょう。
つまり本書の中で藤田氏がくしくも「相手任せのビジネス」といっているのがよくわかります。
自分の関連の担当部署にどう食い込んでいくかだけを考えているし、それでよいと考えていたのです。
本書の中では、それを古いビジネススタイルとよんでいます。
その結果どうなるかというと、何ヶ月も研究部門といっしょに試作品の開発を行った末にやっと本社のマーケティング部門に提案しても、様々なマーケティング上の理由、即ちこれでは売れないとか、受け入れられない、などによって話がボツになり、それまでの努力が水の泡になるということです。
そこで、藤田氏はどうしたかというと、アプローチ先を変えました。当時同氏は、アスパルテームという低カロリー甘味料で機能性素材を扱っていました。
食品メーカーの研究所ではなく、本社マーケティング部門に対して低カロリー製品の今後の有望な将来性を、しっかりとしたデータに裏打ちされた形で訴えていく形にかえ、この製品の担当者が社内で動きやすいようにと変えていきました。
最終的には食品メーカーの製品の開発から販売までのプロジェクト全体を通じて関わっていくことに成功したのです。
つまり言い換えると、自分の素材を直接売るまた単に市場にニーズと関係なく、開発に関わるのではなく、その素材が最終的には顧客企業とエンドユーザーとの関係を助けていく、ということを手伝うことで、結果的には自分たちの素材も売れていく、ということに繋がってくることになるのです。
セールス手法などでは、顧客企業の顧客のことを考えて、などとも言いますが、このアプローチはまさにそういうことではないでしょうか。
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個別企業を相手にする、ということであればこのやり方は非常に有効でしょう。
しかし、これだけだと、前回の話題のように「超有名ブランド品ではないが、高くてよいもの」というもののニーズが減っていってしまうと、まだ弱みがあるかもしれません。
では、そうすればよいのかというと、一つの市場を作るということが答えの一つかもしれません。
実際、藤田氏はキシリトールでそれをやったのではないでしょうか。
フィンランドのザイロフィン社が日本に法人を作った時、藤田氏は強く請われて味の素をやめてザイロフィン社に加わります。
しかし、そもそもが逆風です。
食品添加物としては、日本ではまだ認可されていない。
しかも高い。当時1キロあたり砂糖の5倍以上の高値の1000円以上。
普及したあとでも普通のガムが100円のところ2割高の120円。
当然営業に行っても追い返されるばかり。
何だか自分の過去を振り返るようです。
すでに確立されたマーケットがある。そこに新しいCADを持っていっても中々勝負にならない。
代理店は売れ筋の競合他社の製品を売りたがり、自分たちのCADは扱ってくれない。
とまあ、そこで嘆いていても仕方がないわけです。
藤田氏は、ここでもB2B2Cのやり方を持ち込みました。つまり消費者を視野にいれた活動を始めたのです。
それまでの常識はB2BとB2Cは住み分けるものということ。
でも、藤田氏は素材メーカーが直接消費者つまりエンドユーザに働きかけたほうが、そのメリットが伝わりやすいと気づき実行したのです。
まずはとにかく認可されなければ話がはじまらないわけです。
そこで同氏は、歯科医を巻き込むことから始めました。キシリトール研究の第一人者の歯科医を巻き込み、歯科医のコミュニティを味方にすることから始めました。
また、一般向けには効用をうたう広告が薬事法上できないため、そのかわりに積極的に情報提供を行い記事にしてもらうというPRの手法によって効能が一般にも伝わるようにし、消費者も味方につけていくようにしています。
外堀が埋まるにつれて流通が動き出します。
そうなると、それまでまったく動かなかったメーカーが動き出すという形になりました。
もっとも、実際にはすぐに認可がおりず、同氏はその後の一年地獄のような日々を過ごすわけですが、それは同書にて。
しかし、認可が降りると一斉にいくつものメーカーからキシリトール入りガムが発売となります。
さて、ここで重要なのは勢いを止めないということ。市場に定着してくれないと一過性のブームで終わり、ひょっとすると「廃業」になってしまうかもしれません。
それに対しての、一つは歯科医を巻き込んで、それまで日本ではあまり注目されてこなかった予防歯科というものを確立していくということ。これによって、歯科医のほうも定期的なメンテということで常に患者と繋がっていくことができるわけです。そこにキシリトールは重要な役割を果たします。
もう一つはカテゴリーを作る、ということです。
複数のメーカーが、キシリトールに目をつけて機能性食品として売りだしたことで、単一の製品ではなく、一つのカテゴリーとなったわけです。
カテゴリーはとても重要です。
例えば、元々はカテゴリーがあったものが誰かが一人勝ちして、他の会社が撤退してしまうと実はその勝ち残った製品も売れなくなります。
カテゴリーがあれば、まとまった棚やコーナーも作れるし、このカテゴリー全体を社会に訴えていくことができます。
そしてこのカテゴリーは最終製品のメーカーではなく、そのメーカー各社に素材を提供する素材メーカーだからこそできるわけです。つまり、底辺から支える仕掛け人となるわけですね。
その後同氏がしかけた食物繊維という素材でも、デトックスという新たな切り口から市場を開拓し、「食物せんいプロジェクト」という形で業界の食品メーカー9社を集めるにいたっています。
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つまるところ、もちろん最終的には直接の顧客企業から注文書をいただいて、納品して、回収するということですが、それを長期にわたって行うためには、自分の製品や素材が活躍できるための市場のお膳立てをする、それを材料を提供する自分たちだからオーガナイズできると考える。
そのためには自分たちが何ができるのかを考えることが重要だと思います。
相手が存分に活躍できる市場を実は自分たちが仕掛ける、そこで顧客が欠かせないものが自分たちの製品、もちろんそれによってエンドユーザにもメリットがある、そんな拡張した企画力が必要なのではないかと思いました。
私にとってのキシリトールは何か、自分たちの歯科医はだれか、自分たちの食物せんいプロジェクトは何か、まず抽象化してから自分の身に置き換える、そんなことでヒントが見えてくるでしょう。
そういう意味では、その繊維も何かそのコアな価値を活かすことで、別の市場を組み立てられれば運命が違ったのかもしれません。
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